パフォーマンスマネジメントとは——日本の目標管理は「目標を管理」して、人を動かしていない
この記事の要点
- マネジメントの仕事は、突き詰めれば「パフォーマンスを出す」こと以外にない。パフォーマンスマネジメントは、その実践のこと
- 日本の目標管理は「目標を管理する」作業になっている。本来は「目標によって、人が動く」ためのもの——ベースが逆
- 評価もMBOもOKRも、部品にすぎない。核は、共通言語(目標)をつくって「なぜその数字か」を対話し続けること
「パフォーマンスマネジメント」という言葉を、最近よく聞くようになりました。コレドウも先日、この分野の第一人者である志水静香さん(株式会社Funleash 代表取締役 兼 CEO)を顧問に迎えました(お知らせ)。ただこの言葉、日本ではまだ「評価制度の今っぽい呼び方でしょ?」くらいに受け取られることが多い気がします。全然、違います。(目標の話をした瞬間に“人事の話”へ仕分けられてしまう構造は「じゃあ、人事に伝えておきますね」——目標と評価は、いつから“人事の話”になったのかに書きました。)今日は、パフォーマンスマネジメントとは何なのか、そしてなぜ日本の目標管理はうまくいかないのか、僕の考えを書きます。
パフォーマンスマネジメントとは——マネジメントの仕事は、それ以外にない
マネジメント論では昔から、「成果への関心」と「人への関心」の二軸でマネジメントを語ってきました。ブレイクとムートンのマネジリアル・グリッド、日本発なら三隅二不二のPM理論——目標達成(Performance)と集団維持(Maintenance)、2つの機能です。最近のHR界隈でも、「ピープルマネジメント」という言葉で"人に向き合う側"が改めて注目されています。
でも僕は、この二軸を"並列"に置くことに、ずっと違和感があります。人に向き合うのは、何のためか。数字を追いかけるのは、何のためか。どちらも目的をたどっていくと、行き着く先は同じです——組織として、パフォーマンスを出すため。PM理論のPが文字どおりPerformanceであるように、M(人と集団の維持)もまた、Pのための機能なんです。
だから僕の定義はシンプルです。マネジメントの仕事は、パフォーマンスを出すこと以外にない。人に向き合うのもそのための手段だし、数字を見るのもそのための手段。パフォーマンスマネジメントとは、この本業を「目標・対話・評価」という道具立てで回し続ける実践のことです。人材を査定するための仕組み、ではありません。個人のパフォーマンス向上と成長を促し、それを組織全体の成果へつなげていく——それが本来の姿です。
評価は「部品」にすぎない。でも、ただの部品でもない
では、評価とは何か。
ひとつは、インセンティブです。頑張る動機として、いちばん分かりやすいもの。でも、それだけではありません。評価は双方向の対話でもあります。「何が良くて、何が違ったのか」をすり合わせる場。一方的に点をつけるものではなく、すり合わせて初めて機能する。そして「どんな行動・発言をする人が評価されるのか」を示すことは、組織の文化をつくることでもあります。インセンティブであり、対話であり、文化形成。評価は、この3つの顔を持っています。
顧問の志水静香さんは、これを"らせん"と表現していました。目標設定 → 対話 → 評価 → 報酬を、一度きりのイベントではなく、ずっと回し続ける循環。その循環全体が、文化づくりであり、事業目標の達成につながっていく(この話は大感謝祭のレポートに詳しく書きました)。
つまり、パフォーマンスをマネジメントするうえで、評価は部品のひとつにすぎません。だから、評価制度だけを取り替えても、パフォーマンスは出ない(なぜ評価制度は「作っても回らない」のか)。
もうひとつ、大事なことを。人のモチベーションの源泉は、インセンティブだけではありません。誰かへの貢献に置いている人もいれば、自己実現に置いている人もいる。マズローの欲求段階のように、人によって、いる段階も違う。メンバー一人ひとりの源泉がどこにあるかを見て、誰の何を、どう動かすかを考える。これもまた、マネジメントの仕事です。
日本の目標管理は「ベースが逆」——目標を、管理してしまっている
MBOの正式名称は、Management by Objectives and Self-Control。「目標と自己統制によるマネジメント」です。ところが日本では、後半のSelf-Controlが、きれいに消えました。
僕は「翻訳で抜け落ちた」というより、国民性と合わなかったんだと思っています。欧米では、キャリアをどうするか、将来何をやりたいか、という会話が日常にあります。ジョブが土台にある働き方だから、考えざるを得ない。一方の日本は、年功序列と終身雇用の名残がまだ色濃くて、「あなたは何をやりたいの?」と問われる機会そのものが少ない。夢や目標を語り、それによってモチベートされるという文化が、そもそも薄いんです。自分で目標を立てて、自分を律する——セルフコントロールが機能する土壌がなかった。
その結果、日本の目標管理はどうなったか。「目標を管理する」作業になりました。シートを配って、書かせて、集めて、期末に照合する。目標管理という言葉どおりのことを、律儀にやっている。
でも、本来のMBOは逆です。目標を管理するのではなく、目標によって、人が動くようにする。目標で人をマネジメントする、という発想です。ベースの発想が、ひっくり返ってしまっている。ここが、日本の目標管理が査定の手続きと化した根っこだと僕は考えています。(目標を"組織の共通言語"として捉え直す話は目標管理とは、評価のための作業じゃないに書きました。)
「OKRと見せかけたMBO」——流行りの手法も、同じ穴に落ちる
「うちはMBOじゃなくてOKRです」という会社、増えましたよね。でも中身を見せてもらうと、だいたい"OKRと見せかけたMBO"です。
まず、ムーンショットを書かない。OKRの肝は「達成できるか分からない挑戦的な目標」のはずなのに、並んでいるのは届きそうな数字ばかり。そして、査定とくっつけている。挑戦してほしいのに評価に直結させたら、誰も挑戦しません。組織単位まで目標をブレイクダウンしたら、最後は個人が"MBO的に"自分の目標を書く——結局、同じことをしている。
もうひとつ、根深い理由があります。数字そのものに心躍る人が、日本にはあまりいないことです。OKRはKPIがブレイクされていく設計ですが、数字だけでモチベートされるのはどちらかというと欧米的な感覚で、日本では数字に「意味づけ」があって初めて刺さる。だから運用が自然とMBO側に寄っていく。本来は、Oに夢や「Why me(なぜ自分たちがやるのか)」が乗っているのが良いOKRだと思うんですが、それを描ける経営やマネジメントが圧倒的に少ない。結果として、KRとKPIばかりが先行する。
誤解しないでほしいのは、OKRを否定したいわけではない、ということです。MBOかOKRかは、正直どうでもいい。どの箱を選んでも、パフォーマンスマネジメントという本体がなければ、同じ穴に落ちる。それだけの話です。(OKRの“特性”を理解して使う——という一段深い話はOKR、「特性」をわかって使っていますか?に一本にまとめました。)
実践はシンプル。「なぜその数字か」を対話する
じゃあ、何から始めればいいのか。
僕の答えはシンプルで、とにかく対話をすることです。共通言語(目標)をつくって、対話をし続ける。制度をどう変えるかとか、MBOかOKRかとか、本当にどうでもいい。まず対話をしてほしい。
よく「数字が行ってなくて、ヤバいんです……」と悩んでいる人がいます。でも、何がヤバいのか。目標の数字に届いていないからヤバいわけですよね。では、その数字は誰が、どういう理由で置いたのか。結局多くの人が、適当に作られた目標に縛られて、数字だけに追われているんです。
「来期は売上4000万」——じゃあ、なぜ4000万なんですか?
この質問に答えられる経営者やマネージャーが、少なすぎる。「4000万ならシェアが1%取れて、業界内での影響力が変わるから」でもいい。「今年が1000万で、4倍成長を示して大きな調達に行くから」でもいい。何かしら「なぜその数字なのか」があるはずです。そして、ここが擦り合っていないと、同じ4000万でも作り方がまるで変わってしまう。シェアを取りにいく4000万と、調達のために成長率を示す4000万では、打ち手が違うんだから。(この「なぜその数字か」だけを一本に深掘りした話は目標数字の「目的」、答えられますか?に書きました。)
数字の"なぜ"を対話する。目標を、管理する対象ではなく、対話の土台になる共通言語にする。そこから先は、目標 → 対話 → 評価のらせんを、回し続けるだけです。(目標を具体的な共通言語に落とす方法は目標設定の方法に。)
まとめ:パフォーマンスマネジメントとは、対話で回すマネジメントの本業
- マネジメントの仕事は、パフォーマンスを出すこと以外にない。パフォーマンスマネジメントはその実践
- 評価はインセンティブであり、対話であり、文化形成。ただし、部品のひとつ
- 日本の目標管理は「目標を管理」してしまっている。本来は、目標によって人が動くためのもの
- MBOかOKRかはどうでもいい。「なぜその数字か」が対話で擦り合っているかが、すべて
コレドウは、この「目標・対話・評価が日々のマネジメントの中で回り続ける状態」——つまりパフォーマンスマネジメントの実践——を、評価制度は変えずに、AIの伴走で現場に定着させるサービスです。顧問・志水静香さんの知見も取り入れながら、マネジメントの本業に集中できる組織を増やしていきます。(プロダクトの詳細はこちら)
参考・出典
- 三隅二不二「PM理論」(1966)——リーダーシップをP(Performance:目標達成機能)とM(Maintenance:集団維持機能)の2機能で捉える日本発の理論
- Robert R. Blake & Jane S. Mouton "The Managerial Grid"(1964)——「成果への関心 × 人への関心」の二軸モデル
- P.F.ドラッカー "The Practice of Management"(1954)——MBO(Management by Objectives and Self-Control)の原典