コレドウ
組織開発

AI活用でもめるのは、使い方ではなく境界線

曽良 竜太 (コレドウ代表取締役)
AI活用でもめるのは、使い方ではなく境界線

この記事の要点

  • 「AIで何ができるか」はもう驚かれない。知られているのに使えていない状態が続いている
  • 各自が勝手に使うと似たエージェントが乱立するが、統一しようとすると今度は「すぐ作れる」というAIの価値と衝突する
  • AI化したくなる場所は他部署との境目にあることが多く、置き換えられる側の反発と主導権の取り合いが起きる。これは使い方ではなくガバナンスの問題

人事の方とお話ししていて、最近ほとんど起きなくなったことがあります。

AIのデモをお見せしたときに「え、こんなことができるんですか」と驚かれることです。もう驚かれません。何ができるかは、だいたい知られています。

それなのに、使えていない。

今日は、その状態がなぜ続くのかという話と、実際に使いはじめたときに次に何が起きるのかという話を書きます。

「そもそもAIって何ができるんですか」は、まだ多い

ただし、質問としては今もよく受けます。「そもそもAIって何ができるんですか」。

矛盾しているようですが、たぶんこういうことだと思っています。**一般論としては知っている。でも自分の仕事に当てはめたときの解像度がない。**だからデモを見ても驚かないし、質問はなくならない。

目標設定という具体的な業務に絞って、AIが効く場所と効かない場所を数百件のデータで見た話はAIで目標設定はどこまでできるのかに書きました。

そして、そのあとに続く話がだいたい3つに分かれます。

ひとつは、会社から利用を制限されているケース。使いたくても環境がない。

ふたつめは、自分で試してみたけれど上手くいかなかったので、こちらに依頼が来るケース。

みっつめが少し不思議で、**自社のセキュリティ規程では扱えないので、僕に依頼が来る**というものです。社内でAIを使うのは禁止されているのに、外部にAIを使った作業を依頼するのは通る。

責める話ではありません。規程が現実に追いついていないだけです。ただ、これは**知られているのに使えない状態**を、よく表していると思います。

各自が使いはじめると、似たものが社内に乱立する

制限がゆるむと、今度は逆のことが起きます。

各自がそれぞれAIを使いはじめると、**同じような挙動をするエージェントが社内に乱立します。**議事録を要約するもの、資料の下書きを作るもの、メールを整えるもの。部署ごとに、下手をすると人ごとにできていく。

統一すればいいのに、と思うことがよくあります。

実害もあります。まず単純に無駄です。同じものを何度も作っている。そしてメンテナンスが大変になります。誰かがどこかで適当に作ったエージェントが、運用しきれずに壊れる。作った本人しか直せないので、そのまま放置される。AIで作るのが簡単になっても、壊れるのはいつも運用のほうです(AIで“作る”のは簡単になった。それでも破綻するのは、いつも運用だ)。

組織で使うなら組織として作ったほうがいい、というのは正しいと思います。

ただ、ここにジレンマがあります。**話を大きくすると、今度は「AIならすぐ作れる」というメリットと衝突する**んです。全社で統一しようという話になった瞬間、要件定義が始まって、承認が要って、半年かかる。それなら各自で作ったほうが早い、という状態に戻ります。

だから「統一しましょう」だけでは動きません。速さを殺さずに、どこを共通化するかを決める必要があります。

そして、これは現場が悪いわけでもありません。誰も決めていないから、必要な人が各自で作る。前に書いた話とまったく同じ構造で、**決まっていない空白は、現場が各自の解釈で埋めます。**マネージャーの当たり外れが生まれるのも、同じ理由です(「マネージャーの当たり外れ」の正体)。

AI化したくなる場所は、たいてい境目にある

ここからが本題です。

人事の現場で、AIで何をやりたいかという話になると、出てくるのは採用面接の議事録だったり、評価コメントの下書きだったりします。**そしてそれを望むのは、たいてい現場のほうです。**

なぜかというと、AIを使いたくなるのは、自分の本業そのものではないからです。**本業の隣にある仕事や、他部署との調整が必要で面倒な仕事**。ここを楽にしたい、という動機で導入が始まります。

ところが、その仕事は誰かの本業です。

隣接している部署から見れば、**自分たちの業務がAIに置き換えられようとしている**ように見える。だから反発が起きます。そして「それをやるなら、うちが作りますよ」という話になって、**主導権の取り合いが始まる。**

たとえば、こういうことが起きます。

ある部署が、バナーや簡易的なサイトを作りたい。本来はブランディングやデザインの部署に依頼する話ですが、そこに頼むと時間がかかる。だから自分でAIを組んで、デザインを起こせるようにしてしまう。手が早いので、実際に作れてしまいます。そしてデザインチームが怒る。

もうひとつ。経理の処理が面倒なので、自分で処理するシステムを勝手に作ってみる。動きます。ところが経理側から見ると、全体のフローとの整合が取れていない。それで「そのAIはこちらで作るので、待ってください」という話になる。**そして、しばらくできあがらない。**

どちらも、誰かが悪いわけではありません。早くしたい人と、全体を守りたい人が、それぞれ正しいことをしています。

AIの精度の話でも、使い方の話でもありません。**どこまでを自動化するのか、誰がそれを持つのかという境界線の話**です。

だからこれは、ガバナンスの問題になる

境界線は、現場では引けません。

自分の業務を楽にしたい人と、自分の業務を守りたい人が向かい合っている状態で、どちらかが譲る理由がないからです。話し合いで解決できる問題ではなく、**決める人が要る**問題です。

決めるべきことは3つあると思っています。

  • どの業務をAIに置き換えるのか。そして、置き換えないのはどれか
  • 置き換えたあと、その業務は誰が持つのか
  • 全社で共通のものを使うのか、部署ごとに作ってよいのか

これはツール選定の話ではなく、業務分掌の話です。だから経営マターになります。AIがすごく見えるとき、その正体が業務設計の不足であることは珍しくありません(「AIが会社みたいに働いてすごい」の正体は、業務設計の不足かもしれない)。

AIをどう使うかは現場の工夫ですが、**どこまで使うかは経営の設計**です。ここを決めないまま導入だけ進めると、部署間の緊張が上がるだけで終わります。

参考までに、僕らがAIにやらせないと決めたこと

線を引くというのが具体的にどういうことか。自分の会社の例を書きます。

コレドウはAIを使ったプロダクトを作っていますが、**AIにやらせないと決めたことのほうが多い**です。

まず、**創造はさせません。**AIに任せているのは、シンプルな要約と、ロジカルに穴を見つけて質問することだけです。この2つは明確に得意な領域なので、そこに限定しています。

次に、**仕上げは人手**にしています。だから編集機能を作りました。AIが出したものをそのまま出力する設計にはしていません。

そして、**進捗の管理も人手**です。ここは自動化できそうに見えますが、あえてやっていません。進捗の確認はコミュニケーションそのものなので、そこを機械に渡すと、目的のほうが消えます。フィードバックの頻度をどう設計するかは「忙しくてフィードバックできない」は、順番が逆に書きました。

AIは人の拡張機能だと思っています。本筋は人がやる。その中の一部だけをAIが担う。**ワークフロー全体のうち、一部だけこっそりAI**というのが、実は一番便利で居心地がいいのではないかと考えています。

決めるのは、使い始める前

まとめます。

AIが何をできるかは、もうだいたい知られています。それでも使えていないのは、環境の制限や、自分の業務への翻訳ができていないからです。

そして使いはじめると、次は境界線の問題が来ます。どこまで置き換えるのか、誰がそれを持つのか。ここが決まっていないと、現場は各自で作りはじめ、隣の部署と衝突します。

これは使い方の問題ではありません。**経営が決めていない空白を、現場が埋めようとして起きている問題**です。だとすれば、直す場所も現場ではありません。

コレドウが目標・対話・評価のサイクルで言っていることと、まったく同じ構造だと思っています(パフォーマンスマネジメントとは)。決まっていないことは、誰かが勝手に決めます。決めるのは経営の仕事です。

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