新規事業は、成果で評価してはいけない——9割が失敗する仕事に、どう報いるか
この記事の要点
- 新規事業で累積赤字を解消できるのは7%(アビーム調査)。成果だけで評価する制度では、挑戦した人はほぼ確実に評価されない
- 「思いがあれば成功する」は評価設計の放棄。報われないなら、優秀な人は起業を選ぶ
- 挑戦する文化を作りたいなら、プロセスを評価し、そこで得た学びを後進に残すことをKPIにする
新規事業はほとんど成功しない。これは、たいていの経営者が同意する前提です。数字で見てもそうで、アビームコンサルティングの調査では、大企業が立ち上げた新規事業のうち累積赤字を解消できたのは7%でした。経済産業省のデータを用いた分析でも、新規事業で実際に収益化に至った企業は14%程度とされています。業界には昔から「千三つ」という言い方もあります。
定義によって数字の幅はありますが、共通しているのは——成功するほうが例外だということです。
では聞きたいのですが、その事業を担当した人は、どう評価されているんでしょうか。
成果で評価する制度のままなら、答えははっきりしています。ほぼ確実に評価されません。売上も利益も立たないのだから、評価シートは埋まらない。それでいて会社は「新規事業をやってほしい」と言う。評価されず、成功もせず、応援もされない。それでもやれ、と。
これは、やり損です。
「それでもやりたいという思いがないと成功しない」の欺瞞
この話をすると、必ず返ってくる言葉があります。
「それでもやりたい、という思いがない人には、そもそも新規事業は成功させられない」
一見もっともらしい。でも僕はこれを、評価設計の放棄だと思っています。
思いの強さを要求するなら、その思いに報いる仕組みを用意するのが会社の仕事です。それを用意せずに情熱だけを求めるのは、リスクを個人に転嫁しているだけ。しかも報われないなら、本当に思いのある人ほど合理的な結論に至ります——だったら起業したほうがいい。
自分でやれば、意思決定は速いし、社内政治もないし、成功したときの報われ方の桁が違う。社内で新規事業をやる理由が「思い」しかないなら、思いの強い人から順に外に出ていきます。企業内新規事業が人材流出の入口になるのは、だいたいこの構造です。
「成果が出たらドンと報いるから」も同じです。9割方出ないと分かっている成果に、報酬を後払いで紐づけている。それは報いる約束ではなく、報いない約束を言い換えただけです。
撤退した瞬間に賞を渡す、という不思議
もうひとつ、よく見る光景があります。
挑戦している最中は誰も評価しない。応援もしない。予算も人も渋る。ところが撤退が決まった瞬間、「よく頑張った」と言って、よく分からない社内表彰が出てくる。
あれは何なのか、ずっと考えていました。いまのところの結論は、あれは挑戦者のための儀式ではなく、経営が自分を許すための儀式だということです。撤退の意思決定をした側が、後味を整えるために使っている。挑戦を讃えたいなら、讃えるべきタイミングは終わったあとではなく、続いている最中です。
もし本当に新規事業を生み出し続ける文化を作りたいなら、挑戦している人を、挑戦している最中に持て囃さなければいけない。
プロセスを評価する、とはどういうことか
では何を評価するのか。答えはシンプルで、プロセスです。ただし「頑張ったから加点」という情緒的な話ではありません。評価できる形にする必要があります。
新規事業で確実に生まれるものが2つあります。検証された仮説と、再現できる知見です。成功しなくても、これらは確実に残る。だからここをKPIにします。
- 期中に、何本の仮説を立て、何本を検証したか
- 検証の結果、何が「やってはいけないこと」として確定したか
- その学びを、後進が使える形で残したか(ドキュメント化・社内共有・次の起案への引き継ぎ)
- 撤退判断を、決めた基準に従って期限内にできたか
最後の項目は特に大事です。撤退できずにダラダラ続けるのは、新規事業の最大のコストです。「決めた基準で、決めた期限に撤退した」は、本来は高く評価されるべき成果です。
こうしてプロセスをKPI化すると、9割が失敗する仕事でも、100%評価できるようになります。事業は失敗しても、検証と知見の蓄積は失敗していないからです。
そして知見を残すことをKPIに入れておくと、副次的な効果があります。次の挑戦者の成功確率が上がる。1人目の失敗が2人目の資産になる。これが積み上がる会社と、毎回ゼロから始める会社では、10年後に決定的な差がつきます。
「次からそうするね」で終わる理由
ここまでの話を、僕は実際に上長にぶつけたことがあります。プロセスを評価してくれ、と。
そのときは「そうだね、わかったよ。次からそうするね」と言ってもらえました。話が通じた、と思いました。
でも、その上長が異動して、また同じことの繰り返しになりました。
これが、この記事でいちばん伝えたいことかもしれません。あの約束は制度になっていなかった。個人の理解と善意の上に乗っていただけで、その個人がいなくなれば消える。マネージャーの匙加減でしか評価が決まらない組織では、どんなに正しい合意も、異動ひとつで無効になります。
新規事業の評価が難しいのは、事業の性質だけが理由ではありません。何を評価するかが会社として決まっていないから、担当者ごとに扱いが変わる。これは新規事業に限らず、あらゆる評価の問題と同じ構造です。(この「決まっていないから属人化する」という話は「マネージャーの当たり外れ」の正体に書きました。)
経営がやるべきこと
整理します。新規事業を評価制度に載せるなら、必要なのはこの3つです。
1. 成果評価のウェイトを下げ、プロセス評価を主にする。事業KPIではなく、仮説検証・知見蓄積・撤退判断をKPIにする
2. 挑戦している最中に讃える。撤退時の表彰ではなく、期中のレビューで評価する
3. それを制度として明文化する。「今の上長は分かってくれている」で運用しない。異動しても変わらない状態にして初めて、人は安心して挑戦できる
3が抜けると、1と2は善意のマネージャーの個人技になります。そして善意は異動します。
新規事業をやってほしい、挑戦する文化を作りたい——そう言う会社は多い。でも、挑戦を評価する仕組みを持っている会社は、驚くほど少ない。評価制度が現状維持を最も安全な選択肢にしている限り、社員は挑戦しません。それは社員が保守的なのではなく、制度に対して合理的なだけです。
挑戦してほしいなら、挑戦が報われる設計にする。順番はそれだけです。
まとめ
- 新規事業を成果で評価する限り、担当者は高確率で評価されない。「思いがあれば」は評価設計の放棄
- 報われない社内新規事業は、思いの強い人から先に外に出ていく入口になる
- 失敗しても確実に残るもの——検証された仮説と再現できる知見——をKPIにすれば、9割が失敗する仕事も100%評価できる
- 撤退時の表彰ではなく、挑戦している最中に評価する
- 合意を制度にしないと、担当者の異動で消える
(評価そのものが何を測るものなのかについては会社の評価は、あなたの価値ではないにも書きました。)
参考・出典
- アビームコンサルティング調査(2018年)——大企業が立ち上げた新規事業のうち、累積赤字を解消できたものは7%
- 経済産業省のデータに基づく分析——新規事業に取り組んだ企業のうち、売上・利益が増加傾向にあると回答したのは3割前後。実際に収益化に至ったのは約14%
- 「千三つ」——新規事業の成功率を1,000に3つと表す業界の慣用句。統計的な裏付けのある数字ではない
- 参考:中小企業庁「2023年版中小企業白書」——創業後5年の企業生存率は80.7%。企業として存続することと、新規事業として収益化することは別の指標である点に注意