コレドウ
目標管理

「目標が立てられない」のは書き方の問題じゃない——目標シートが職務定義の代用品になっている

曽良 竜太 (コレドウ代表取締役)
「目標が立てられない」のは書き方の問題じゃない——目標シートが職務定義の代用品になっている

この記事の要点

  • 「目標が立てられない」は本人の書く技術の問題ではなく、その手前にある役割定義が決まっていないことが多い
  • 日本の目標欄は上下から侵食されている。上からは職務定義の空白が、下からは数えやすい施策・タスクが入り込む
  • 「期中に目標が変わる」の正体は、変わって当然のもの(施策)を目標欄に書いているから

「そもそも目標が立てられないんですよね」

お客さんと話していると、本当によく出てくる言葉です。最初のころ僕はこれを書き方の相談だと思っていました。SMARTの型を教えれば解決する、記入例を見せればいい、と。

でも、違いました。

コレドウには、目標を書く前に「チームのミッション」と「その中で自分が求められている役割」を書く欄があります。ここで手が止まる人が、とても多い。「これ、どう書けばいいですか」という相談が来ます。

正直、最初は驚きました。それが決まっていないのに、どうやって組織として成り立っているんだろう、と。でも何度も同じ相談を受けるうちに、こう思うようになりました。決まっていないのではなく誰も考えたことがないんだと。だから、いざ書けと言われると戸惑う。

なぜ書けないのか。数百件の目標データを読んできて、いまはこう考えています。

目標欄は、上と下から侵食されている

仕事の期待は、本来ひとつの階段になっています。

  • 役割:何に責任を持つか。簡単には変わらない
  • 目標:その期にどんな状態を実現するか。一定期間は維持する
  • 施策:どう実現するか。仮説なので変えていい
  • タスク:今週何をするか。頻繁に変わって当然

この階段は、下の段が上の段にぶら下がる形になっているのが健全な姿です。目標の下に施策やタスクがぶら下がっているのはむしろ歓迎すべきことで、それがあるから期中に「やっているのに数字が動かない」を確認できる。問題は、ぶら下がるのではなく目標の席そのものに座ってしまうことです。日本の目標シートでは、「目標」の欄が上と下の両方から侵食されています。

上の「役割」が空白だから、目標欄が職務定義まで背負わされる。下の「施策・タスク」は数えやすいから、目標の席を奪いに上がってくる。目標設定が異様に重いのも、期中に壊れるのも、この二方向の侵食が原因です。順に見ていきます。

本来の4層と、日本の目標シートで起きていること
本来の4層と、日本の目標シートで起きていること

上の空白——役割が決まっていないから、目標が職務定義を背負う

まず上から。日本の会社の多くには「あなたは何に責任を持つ人なのか」を定義する層がありません。

理由はシンプルで、日本の雇用が「人を雇ってから仕事を割り当てる」構造だからです。いわゆるジョブ型の社会では先に仕事があって、その仕事ができる人を雇います。だから職務は入社時点で定義されていて、目標管理はその上で「この期に特に何を達成するか」を決めるだけの、比較的軽い作業です。日本は逆で、まず会社の一員として人を雇い、そのあとで仕事を割り当てる。配置転換で雇用を守る仕組みと引き換えに職務は限定しない。これは日本企業が発達させた合理的な仕組みで、悪ではありません。

ただ、副作用がひとつあります。職務が定義されていないので、目標シートがその代わりを務めることになった。日本の目標シートには、実質こういうものが全部詰め込まれています。

  • あなたの担当業務は何か(=職務定義)
  • 今期、特に何を重視するか(=本来の目標)
  • 何を達成すれば合格か(=評価基準)
  • どう成長してほしいか(=育成計画)
  • 昇給・賞与をどう決めるか(=査定根拠)

5つの別物が1枚の紙に載っている。だから目標を書くことは、実質自分の仕事の定義から始めて、評価される基準まで自分で決める作業になります。これは目標設定というより、雇用契約の再交渉です。期初に何時間もかかるのも、書けと言われて手が止まるのも当たり前だと思います。

下の混入——施策が目標に化けるから、期中に変わる

次に下から。「どうせ期の途中で変わるから」という声もよく聞きます。これも僕は長らく組織の問題だと思っていました。戦略が決まっていないから、業務分掌が曖昧だから、場当たりで動くから——たしかにそれもあります。

でも、それだけではありませんでした。そもそもコロコロ変わるようなことを目標に書いているケースがかなり多いんです。

たとえば「商談を毎週10件行う」は施策です。目標は「受注率を改善して月間の新規売上を安定させる」のほう。商談数を増やすやり方が効かないと分かったら施策を変えればいいだけで、目標は動きません。ところが施策を目標欄に書いてしまうと、現実に合わなくなった瞬間に「目標変更が必要だ」となる。期中の見直しが毎回シートの書き直しになる。これでは開くのが億劫になります。

切り分けたいのは、ぶら下がるのと席を奪うのは違うということです。「受注率を改善して月間の新規売上を安定させる」という目標の下に、マイルストンや「商談を毎週10件」がぶら下がっているのは、いいシートです。結果は期末まで確定しないけれど、行動は今週から確認できるからです。問題は、施策が目標の席そのものに座ってしまうこと。目標の席には数に限りがあります。数えやすい施策がそこを占めると、本来の重点である「今期どんな状態を実現するのか」が追い出される。期末に残るのは「商談10件はやりきった」という記録だけで、事業がどうなったのかは誰にも分からなくなります。

では、なぜ施策が目標欄に入り込むのか。目標データを分析していて気づいたのは、定量化の指導が意図せずこの混入を後押ししていることです。多くの人が「定量的に書きなさい」と教え込まれている。それ自体は正しい指導です。でも、成果を数値で表すのは難しい。一方で行動の数は簡単に数えられる。

  • 訪問件数を月20件にする
  • 研修を3回実施する
  • 資料を10本作成する

どれも定量的です。SMARTのチェックリストも通ります。でも、これらは全部アクションであって実現したい状態ではない。数値化しやすいものを探した結果、成果ではなく行動に行き着く——本人のせいではなく、指導の副作用だと思っています。定量化を教えるなら「何をやったか」ではなく「どうなったか」を数えるとセットで伝える必要があります(この話は目標数字の「目的」、答えられますか?にも書きました)。

侵食された目標欄で、何が起きるか

上下から侵食された目標欄は、こうなります。

期初は重い。職務定義と評価基準まで背負っているから、書くのに何時間もかかる。期中に変わる。書いてあるのが施策だから、現実に合わなくなるたびに書き直しになる。そして期末、行動目標は「達成」と評価されるのに、事業は1ミリも動いていないことがある。訪問20件をやりきったことと、成果が出たことは別だからです。

もうひとつ、たちの悪い帰結があります。会社が戦略を変えて目標の前提が崩れたとき、本来なら、なぜ変えたのか・変更前にどこまで貢献したのか・新しい期待は何かを管理側が引き取る必要があります。ところが実際には「変化に柔軟に対応しよう」と言いながら、場当たりな指示変更の責任が期末に本人へ返ってくる。期初に握ったものを会社側が変えたのに、評価では本人の未達として扱われる。これで納得感が生まれるはずがない。マネジメントがうまくいかないのはマネージャーのせいではなく経営の設計の問題だという話は、ここにもつながっています。

全面的なジョブ型化はたぶん要らない

ここまで読むと「ではジョブ型にすべきか」という話に見えるかもしれませんが、僕はそうは思いません。雇用契約、採用、育成、異動、賃金、組合、職業教育——それらが連動した社会システム全体を入れ替える話なので、職務記述書を書けば済むものではないからです。

必要なのはメンバーシップ型の曖昧さを目標管理だけに背負わせないことです。これくらいの分け方で十分だと思っています。

  • 役割期待:いまの立場で継続的に担うこと
  • 重点目標:今期に特に変化・前進させること
  • 行動期待:どんな判断・協働を求めるか

この3つが分かれていれば、目標設定は「今期の重点を決める場」に戻ります。期初に何時間もかけて自分の仕事を定義し直す必要はなくなる。そして役割期待は毎期書き直すものではないので、2年目以降はさらに軽くなります。

結局のところ、対話していないだけ

ここまで書いてきて、根っこはひとつだと思っています。期待値も、戦略も、ミッションも、対話されていない。議題として取り扱われていないんです。

役割期待が決まっていない会社に、悪意はありません。決めないと決めたわけでもない。ただ、その話をする場が一度もなかっただけです。経営会議のアジェンダは売上進捗と資金繰りと採用で埋まっていて、「うちのマネージャーは何に責任を持つ人なのか」を話す時間はどこにもない。だから空白のまま、期初になると個人に「目標を書いてください」と降りてくる。

ここで言いたいのは、完璧な役割定義を作れという話ではありません。議題に上げ続ければ、何かしらは決まります。 そして決まったものより、決めるプロセスのほうが大事だとも思っています。話し合った過程があるから、現場は「なぜこうなっているか」を知っている。判断に迷ったとき、そこに戻れる。

間違えたら変えればいい。役割期待も、重点目標も、一度書いたら固定しなければいけないものではありません。むしろ、変えられることが分かっているほうが、最初の一歩は軽くなります。

目標が書けないと相談されたとき、書き方を教えるのは対症療法です。手前が空白なら、どんな書き方を教えても埋まらない。コレドウで「チームのミッションと自分の役割」を先に書いてもらう欄を作ったのは、そこが目標の土台だからです。そして運用してみると、ここで手が止まること自体がその組織の状態を教えてくれる。書けないのは個人の能力ではなく、まだ誰も話し合っていないことが、可視化された瞬間なんだと思います。

だったら、話し始めればいい。それは目標設定の技術ではなく、経営が何を議題にするかの話です。

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