目標数字の「目的」、答えられますか?——10億にも、1億にも、それぞれの目的が要る
この記事の要点
- 目標の数字は、それ単体では“作り方”を決められない。「なぜその数字か」=目的が擦り合って、はじめて打ち手が決まる
- しかも目的は階層になっている。会社の10億にも目的が要るし、そこから割り当てられた担当者の1億にも、それ固有の目的が要る。どちらか一方が空でも、現場は動けない
- 目的の起点は経営がつくる。そして、それを各層が自分の数字の目的に翻訳できる状態まで持っていくのが、経営の責任
分厚い目標管理シートより、たった一問のほうが効くことがあります。「その数字、なぜその数字なんですか?」——これに即答できる経営者やマネージャーが、驚くほど少ない。今日は、目標の“数字”ではなく、数字の“目的”の話をします。
「なぜ1億なんですか?」と聞いたら、新卒が固まった
昔、僕がマネージャーだったころ、他部署の若手——新卒でした——と1on1をしていて、こう相談されたんです。「担当している新規事業で、今期1億を積み上げないといけないんですけど、どうしたらいいですかね」。
僕はまず、こう返しました。「どうやって作るかを考える前に、そもそも、なぜ1億なの?」。返ってきたのは、「聞いたことも、考えたこともなかったです」でした。
ここには、実は目的の空白が、二重にありました。ひとつは、会社の目標そのもの——たとえば全社で10億を目指す、その「なぜ10億なのか」。もうひとつは、そこから割り当てられた自分の1億——その「なぜ1億なのか」。上の10億の目的も知らないし、自分の1億の目的も渡されていない。数字だけが、二段重ねで降ってきていたんです。
で、僕はこう続けました。仮にこの1億に目的を持たせるとしたら、少なくとも三通りある、と。
- もし「会社の売上をとりあえず埋めるための1億」なら、極端な話、単価を上げて1件1億にして、1件取ってくればいい
- でも、競合の中でこの事業のポジションを取りにいく1億なら、話はまるで違う。面を取らないといけないから、件数をある程度そろえつつ、プレスを打てるくらいの勢いが要る
- さらに、来期3億に伸ばす、その布石としての1億なら——1億を取ったあとに3億へ広げる仕込み、たとえば認知の資産をどれだけ貯められるかまで含めて設計して、その結果として1億に着地する
同じ「1億」でも、やることが正反対になる。だから、なぜ1億かが決まらないと、どう作るかは決められない。
そして、この1億の目的は、本当は会社の10億の目的と地続きであるべきなんです。会社がなぜ10億を——「この市場でポジションを取るため」なのか「次の投資を引っ張るため」なのかを持っていれば、担当者は自分の1億をそこから翻訳できる。上が空なら、下も決められない。逆に、上に立派な10億の目的があっても、それが自分の1億の目的に翻訳されていなければ、やっぱり動けない。その新卒は、心底驚いていました。「そんな話、聞いたこともなかった」って。
数字って、目的地の“名前”みたいなものなんです。「1億」も「10億」も、名前だけ渡されても、なぜそこへ行くのかが分からなければ、ルート(作り方)は引けない。しかも厄介なのは、目的が階層になっていること。会社がどこを目指すのか(10億の目的)と、自分がどこを目指すのか(1億の目的)——両方が要る。どちらか一方が空でも、地図は完成しません。
「無目的の数字」と、「目的のある数字」
目標の数字は、突き詰めると「無目的の数字」と「目的のある数字」に分かれます。これは10億でも1億でも、どの階層でも同じです。
無目的の数字は、「全体の売上達成のために、このくらいやってよ」という、降ってくる謎の数字です。目的を聞いても「上がそう言っているから」しか出てこない。
一方、目的のある数字には、ちゃんと“なぜ”があります。会社の目標なら、僕が見てきた範囲だと、だいたいこのどれかです。
- 来期以降の投資を引っ張るための数字(実績をつくって、次の資金を動かす)
- シェアや認知からの逆算としての数字(この市場でこのポジションを取るには、これだけ要る)
- 成長率そのものを示すための数字(去年の何倍、という成長を見せにいく)
大事なのは、この会社の目的を、各層が自分の数字の目的に翻訳できているか、です。会社が「シェアを取りにいく10億」なら、担当者の1億は「面を取る1億」になる。会社が「次の調達のための10億」なら、担当者の1億は「再現性を示す1億」になる。上の目的と、下の目的が、同じ絵の中でつながっている。この翻訳が起きて、はじめて数字は現場の共通言語になります。(目標が「作り方を決める共通言語」になる話は目標管理とは、評価のための作業じゃないに、上位目標から個人目標へ“接続”して落とす話は目標設定の方法に書きました。)
新規事業では、そもそも売上を目標に置いてはいけない
もう一段、踏み込みます。とくに新規事業の場合、僕は“売上そのものを目標に置くこと”に反対です。冒頭の新卒が担当していたのも、まさに新規事業でした。
理由は、売上が「遅行指標」だからです。打ち手を打っても、売上として跳ね返るまでには時間がかかる。だから売上だけを見て「行った/行かない」を判断すると、まだ芽が出る前の事業を、“遅れて出るはずの数字がまだ無い”というだけの理由で、殺してしまう。
置くべきは、先行指標のほうです。「検証すべきKGI——この事業が伸びる根拠になる仮説が、ちゃんと成長しているか」。それが伸びているなら投資を続ける、伸びていないなら畳む。売上は、その先行指標が正しかったときに、遅れてついてくる結果でしかありません。
数字は、強い。強すぎるからこそ、目的がとても重要になる。目的のない売上目標を置くと、遅れて出るはずの数字が出ないというだけで、有望な新規事業がすぐに潰されます。「遅行指標の売上が上がるまでには、時間がかかる。それでも賭け続けるのか」——これが、投資判断の最初の議論であってほしい。経営は、そこまで含めて数字を置く責任があると思います。
「野心の数字」に、目的はないのか
ここで、逆の声が聞こえてきそうです。「根拠なんてなくても、まず“やるぞ”と言い切る野心も大事だろう」と。その通りです。でも——野心も、実は一つの“目的”なんですよ。
「それくらい成長しなければいけないんだ」という、経営の意思表明。それ自体が、組織の文化になっていく。だから野心の数字は、目的がないのではなく、“意思表明”という目的を持っている。
そしてよく見ると、その野心にも先があります。大きな投資を引っ張るために、あえて高い旗を立てる。あるいは、「自分たちは急成長できる」という実感を組織に持たせるために、あえて跳ぶ。野心は、無目的とは違う。むしろ「なぜ、その高さなのか」を経営が語れているかどうかで、ただの無茶か、文化をつくる旗か、が分かれます。
その「目的」は、誰がつくるのか
では、数字の目的は、誰が持つべきか。起点は、経営です。
「現場と対話しながら作ればいい」と言われそうですが、対話で目的まで立ち上げられるのは、よほど成熟した組織だけです。共通の文化があって、経営と現場が同じ目線に立てているなら、対話で作れる。でも、多くの組織はそうじゃない。だから、いちばん上の目的は、まず経営がつくるべきです。
そして、ここが大事なんですが——経営の責任は、目的をつくって終わり、ではありません。それを各層が自分の数字の目的に翻訳し、腹落ちできる状態まで持っていく。そこまでが責任だと思っています。会社の10億の目的を握り、それを担当者の1億の目的にまで下ろす。数字だけが降りてきて、目的は誰も知らない——冒頭の新卒が置かれていたのは、まさにこの状態でした。数字を配ったなら、その目的も一緒に配り、各層で翻訳されるまで対話する。それが、経営の仕事です。
おわりに
数字は、強い。強いからこそ、目的を持たせないと、暴走します。無目的の数字は、現場を疲弊させ、有望な芽を摘み、達成しても何も残らない。「なぜ、その数字か」——この一問に、経営が答えを持ち、各層がそれを自分の数字の目的に翻訳できているか。それだけで、同じ10億が、同じ1億が、まるで違う数字になります。
コレドウがAIで支えているのも、この“数字に目的を持たせて、上から下まで共通言語にする”ところです。降ってくる謎の数字を、なぜ・どうやって・何のためにまで擦り合った目標に変える。(プロダクトの詳細はこちら)目標・対話・評価をひとつの循環として回す全体像はパフォーマンスマネジメントとはにまとめています。