人材データが溜まらないのは、入力の問題ではない——「集めるデータ」と「仕事の中で生まれるデータ」
この記事の要点
- 人事の2割は「収集すべきデータは分かっているが集められない」、3割は「集めたが分析が不十分」と答えている。溜まらないのも、溜まっても使えないのも、珍しいことではない
- 溜まらない本当の理由は、人材データを「人事が集めるもの」として設計しているから。集めるデータは、入れる人の記憶と都合と主観でつくられるので、遅く、偏り、欠け、そして事実ではない
- 溜まる会社は、データを仕事の中で生ませている。目標、行動、対話、結果が日常のマネジメントの副産物として残る。確認したいのは、記録の単位が「人」になっているか「仕事」になっているか
「人材データベースを整えたいのですが、データが溜まらないんです」
人事の方からこの相談を受けると、僕はまず、どうやって溜めようとしているかを聞きます。答えはだいたい同じです。年に1、2回、社員にスキルや経験を入力してもらう。管理職にコメントを書いてもらう。締切を決めて、督促する。
そして、溜まらない。溜まっても、翌年には古くなっている。
これは入力の問題ではありません。データの設計の問題です。この記事では、なぜ「集めるデータ」は溜まらないのか、「仕事の中で生まれるデータ」とは何が違うのかを書きます。
溜まらないのは、うちだけなのか?
うちだけではありません。集める側も、集めたあとも、多くの会社が詰まっています。
HR総研が2021年2月に人事責任者・担当者237人に行った調査では、「収集すべきデータは分かっているが、課題があり収集できない」が21%、「データは収集できているが、分析が十分ではない」が33%で最多でした。大企業に限ると、後者は約46%です。収集と活用の最大の課題として、約半数が人的リソースの不足を挙げています。
2025年9月のスマートキャンプ株式会社の調査でも、タレントマネジメントシステム導入後の課題として「データ入力・更新が徹底されず、情報が古くなっていた」(452人)、「社員や部署の協力が得られず、データが集まらなかった」(330人)が上位に入っています。
集めようとしている。でも集まらない。集まっても使えない。この順番で詰まるのは、どの会社も同じです。
「集めるデータ」は、なぜ溜まらないのか?
入れる人の記憶と都合でつくられるからです。
年に一度の入力を想像してください。社員は、この1年で何をしたかを思い出しながら書きます。半年前のプロジェクトの細部は、もう覚えていない。覚えていることのうち、自分に不利になりそうなことは書かない。書いたら何が起きるか分からないので、当たり障りのない内容にする。
つまり「集めるデータ」には、構造的に4つの欠陥があります。
- 遅い。起きたときではなく、思い出したときに書かれる。記憶は薄れ、順番は入れ替わる
- 偏る。入れる人が、入れる内容を選べる。良いことは残り、うまくいかなかったことは残らない
- 欠ける。入れない人が必ず出る。入れたあとに何も起きなければ、次の回はもっと減る
- 主観である。「できる」「得意」「意欲が高い」は、本人か上司の見立てであって、事実ではない。見立ては人によって基準が違う
前回の記事で書いたとおり、入れたあとに何も起きないデータを、人は合理的に入れなくなります。欠損が増えたデータは集計しても意味を持たず、使われないので、さらに入れられなくなる。督促を強めても、締切前に適当な値が入るだけで、質は上がりません。
集めるデータが溜まらないのは、社員の協力が足りないからではなく、集めるという設計そのものが、遅くて偏って欠けた、しかも主観のデータしか生まないからです。
集めたデータは、そもそも事実なのか?
4つ目の欠陥は、ほかの3つより根が深いので、少し掘り下げます。集めるデータの多くは、事実ではなく見立てです。
スキルマップに「できる」と書いた人が、本当にできるのか。本人は「かなりできています」と言うけれど、周りの評価は違う。逆に、実際には高い水準で仕事をしているのに、控えめにしか書かない人もいる。主観と客観は、いつもずれます。
スキルを自己申告で集めるのではなく、目標と評価から貯めていく考え方はスキルマップは「作る」ものではなく、「貯まる」ものに書きました。
このずれは、本人の誠実さの問題ではありません。自己申告という取り方が、ずれを生む構造になっています。基準が共有されていないので、「できる」の意味が人によって違う。申告の場面が評価や配置に直結すると分かっていれば、高めにも低めにも寄せる動機が働く。
上司のコメントも同じです。「協調性がある」「主体性が足りない」は、その上司の見立てであって、別の上司が見れば違う言葉になります。見立てを何年分集めても、見立ての山ができるだけで、事実は増えません。
だから、自己申告のスキルや上司の印象を何年分集めても、配置や育成の判断に使えるデータにはなりません。使えるのは、その人が実際に何をやって、どうなったかの記録です。見立ては、事実の記録があって初めて、根拠を持ちます。
「仕事の中で生まれるデータ」とは何か?
日々のマネジメントの副産物として残るデータのことです。
誰が、どんな目標を持ったか。それに対して、どんな行動をしたか。上司と何を話し、何を修正したか。結果はどうだったか。これは、目標と対話と評価が日常で回っている会社なら、誰かが「集めよう」としなくても、毎週のように発生しています。
このデータは、集めるデータの4つの欠陥を、構造的に持ちません。
- 速い。起きたときに残る。思い出す必要がない
- 偏らない。うまくいかなかった目標も、修正した行動も、そのまま残る。選んで入れるものではないから
- 欠けない。仕事をしている限り、発生し続ける。入力の締切がないので、入れ忘れもない
- 事実である。どんな目標に対して、何をして、どうなったかは、見立てではなく起きたこと。評価という見立ては、その事実の上に載せればいい
そして何より、入れた人に返ってきます。自分の目標と進捗が見える。上司との対話が、前回の続きから始まる。期末の評価に思い出し作業が要らない。入れることが自分の仕事を楽にするので、入れ続ける理由がある。
これが、人材データが溜まる会社と溜まらない会社の違いです。溜まる会社は、集めていません。生ませています。
人材データの記録の単位は、「人」と「仕事」のどちらがいいのか?
確認したいのは一つです。いまの人材データベースの記録の単位は何か。
「人」を単位にしたデータベースは、社員一人ひとりに属性を貼りつけていきます。スキル、資格、経験、志向。これは静的なデータで、更新するには誰かが入力し直す必要があります。
「仕事」を単位にした記録は、目標と行動と対話と結果を時系列に積んでいきます。これは動的なデータで、仕事が進めば勝手に伸びます。そして、その積み重ねを見れば、「この人は何ができて、どう成長してきたか」は、自己申告より正確に分かります。
人材データベースが必要ないという話ではありません。配置や育成を考えるときに、人単位で見る画面は要ります。ただ、その画面に映すべき中身は、人に貼りつけた属性ではなく、仕事の中で生まれた記録の要約であるべきだ、ということです。
パフォーマンスマネジメントとタレントマネジメントで、扱うデータがどう違うのかはパフォーマンスマネジメントとタレントマネジメントは、何が違うのかに書きました。
人材データを集める前に、仕事の中で生まれる状態を先につくる。溜まらないと悩んでいる会社に足りないのは、入力の徹底ではありません。
次に読むもの
日々のマネジメントが回っている状態については、パフォーマンスマネジメントとは何かに。「集めるデータ」の入口である目標が、行動やスローガンになってしまう問題は目標が立てられない会社の人は、毎日なにを目指して働いているのかに書きました。システムが使われない状態からの確認手順は、前回のタレントマネジメントシステムを入れたのに使われない。次に確認したい3つのことです。
コレドウは、目標、行動、対話、評価の記録が期中に溜まっていく、パフォーマンスマネジメントシステムです。人材データを集める仕組みではなく、仕事の中で生ませる側の仕組みです。溜まった記録は、そのまま次の目標と配置の材料になります。(プロダクトの詳細はこちら)
よくある質問
人材データが溜まらないのはなぜですか?
人材データを、人事が集めるものとして設計しているからです。集めるデータは入れる人の記憶と都合と主観でつくられるので、遅く、偏り、欠け、事実ではなくなります。入力の徹底不足ではなく、データの設計の問題です。
人材データベースの情報が古くなるのを防ぐには、どうすればいいですか?
更新を督促するより、データが仕事の中で生まれる状態を先につくります。目標、行動、対話、結果が日常のマネジメントの副産物として残れば、起きたときに記録されるので、思い出して入力する必要がありません。
人事のデータ収集は、多くの会社でうまくいっていないのですか?
HR総研の2021年2月の調査では、収集すべきデータは分かっているが収集できないが21%、収集できているが分析が十分ではないが33%でした。溜まらないのも、溜まっても使えないのも、珍しいことではありません。
参考・出典
- HR総研「人事データの収集・活用に関する実態調査」(2021年2月22日〜28日、企業の人事責任者・人事担当者237件、WEBアンケート)https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=306
- スマートキャンプ株式会社「タレントマネジメントシステム導入後の課題調査」(2025年9月17日〜23日、導入に携わった経験のある20〜60代1,771人、インターネット調査)https://boxil.jp/mag/a10171/
この記事の土台になっている考え方の全体像は、パフォーマンスマネジメントとは何かにまとめています。体系的な解説はコレドウ・パフォーマンスマネジメント全書(抜粋版)へ。