パフォーマンスマネジメントとタレントマネジメントは、何が違うのか——ワークフローだけあっても、目的には届かない
この記事の要点
- タレントマネジメントシステムは「人材の適正配置」や「戦略的な人材育成」を目的に導入される。しかし実際に多くの会社で動いているのは、目標と評価のワークフローだけ
- 2つの仕組みは、目的も、起点になるデータも、動く頻度も違う。人材を把握して活かすのがタレントマネジメント、目標・対話・評価を日常で回して成果を出し続けるのがパフォーマンスマネジメント
- 見分け方は「目的に立ち返る」こと。ワークフローだけあっても、人は動かない。自社がワークフローとしてしか使っていないなら、必要だったのはタレントマネジメントではなかった可能性が高い
「タレントマネジメントとパフォーマンスマネジメントって、何が違うんですか」
最近、この質問をよく受けます。タレントマネジメントシステムを入れている会社の人事からも、これから入れようとしている会社の経営者からも。
似た言葉ですし、機能表を並べると重なって見えます。目標管理、評価、1on1、スキル管理。どちらにもある。でも、この2つは目的が違います。目的が違うので、必要なデータも、動く頻度も、誰の営みかも違う。この記事では、その違いと、自社にどちらが必要かの見分け方を書きます。
タレントマネジメントとは、人材を把握して配置と育成に活かす、「管理」の仕組みです。パフォーマンスマネジメントとは、目標・対話・評価を日常で回し、一人ひとりが成果を出し続けられる状態をつくって維持する、「経営」の仕組みです。
タレントマネジメントは、何のために導入されるのか?
人材を把握して、配置と育成に活かすためです。
HR総研が2019年に人事責任者らに行った調査では、タレントマネジメントシステムの導入目的として最も多かったのは「人材の適正配置」で39%、次いで「戦略的な人材育成」が32%でした。誰がどんなスキルと経験を持っているかを一元的に把握し、次の異動や登用、育成計画に使う。これがタレントマネジメントの本来の目的です。
一方で、同じ調査で選定基準の上位は「運用コスト」65%、「初期コスト」51%、「操作性」40%でした。目的は配置と育成なのに、選ぶときはコストと使いやすさで選んでいる。この時点で、目的と手段のあいだに小さなずれがあります。
実際には、何に使われているのか?
目標と評価のワークフローです。
僕が300社超と目標や評価の話をしてきた中で、タレントマネジメントシステムを入れている会社のほとんどは、期初に目標を入れ、期末に評価を入れる、この2回のワークフローとして使っていました。人材データベースの部分は、導入時に一度入れたきり更新されていない。配置や育成の判断に使われた形跡がない。
なぜそうなるかは、前回の記事に書きました。入れたあとに何も起きないデータは、合理的に入れられなくなります。結果として、「入れないと給与が決まらない」目標と評価だけが残る。
つまり、多くの会社では、タレントマネジメントの目的である配置と育成は動いておらず、動いているのはワークフローだけです。ここで一度、立ち止まったほうがいい。そのワークフローは、何のためにあるのか。
2つの仕組みは、何が違うのか?
目的、起点、頻度、データ、そして営みの性格。この5つが違います。
目的。タレントマネジメントは、人材を把握して、配置と育成に活かすこと。パフォーマンスマネジメントは、一人ひとりが目標に向かって成果を出し続けられる状態をつくり、維持すること。前者は「誰をどこに置くか」の仕組みで、後者は「置かれた人がどう成果を出すか」の仕組みです。
起点。タレントマネジメントの起点は人材データです。スキル、経験、資格、志向を集めて、そこから配置や育成を考える。パフォーマンスマネジメントの起点は目標です。何を達成するかを決めて、そこに向かう行動と対話と評価を回す。
頻度。タレントマネジメントは、年に数回のイベントで動きます。異動の時期、育成計画の策定、後継者の検討。パフォーマンスマネジメントは、毎週動きます。目標の進捗を見て、上司と話して、行動を修正する。止まると、成果が出なくなります。
データ。タレントマネジメントが扱うのは、人に貼りついた属性と、それに対する見立てです。パフォーマンスマネジメントが扱うのは、目標に対して何をして、どうなったかの履歴です。前者は集めないと溜まらず、後者は仕事をしていれば溜まります。この違いは人材データが溜まらないのは、入力の問題ではないに詳しく書きました。
性格。タレントマネジメントは、管理です。人材を把握し、整え、必要なときに取り出せるようにしておく。担うのは人事です。パフォーマンスマネジメントは、経営です。目標を掲げ、人を動かし、成果を出す営みそのもので、経営者から管理職、メンバーまで全員がその当事者です。人事はそれを支える側に回ります。
並べると分かるとおり、この2つは競合していません。層が違います。人材を管理する層と、人を動かして成果を出す経営の層。本来は、後者で生まれた履歴が、前者の判断材料になる関係です。
ワークフローだけあっても、なぜ目的に届かないのか?
目的に立ち返ると、ワークフローは目的ではないからです。
期初に目標を書く箱があり、期末に評価を入れる箱がある。この2つの箱は、給与を決める手続きとしては必要です。でも、その手続きが回ったからといって、人が目標に向かって動くわけではありません。目標は期初に書かれたまま忘れられ、期末に思い出して評価が埋まる。箱は埋まっているのに、目的である「成果を出し続ける状態」は生まれていない。
タレントマネジメントの目的である配置と育成も同じです。人材データベースに属性が並んでいても、それを見て誰かが配置を決めなければ、目的には届いていない。
だから、システムを選ぶときに機能表を比べても、答えは出ません。問うべきは「その機能で、何が起きるのか」です。目標を入れる箱があることと、目標に向かって人が動くことは別です。スキルを入れる欄があることと、それを見て配置が決まることも別です。ワークフローだけあってもしょうがない、というのは、そういう意味です。
自社に必要なのはどちらか、見分け方
3つの問いで見分けられます。
1. 先月、社員の仕事で起きたことのうち、システムに反映されたものはあるか。目標の進捗、1on1の記録、フィードバック。何も反映されていないなら、そのシステムは日常のマネジメントとつながっていません。必要なのは、まず日常で回る仕組み、つまりパフォーマンスマネジメントです。
2. この1年で、人材データベースを見て決めた配置や育成は何件あるか。ゼロ、あるいは思い出せないなら、タレントマネジメントの目的は動いていません。入れているのはタレントマネジメントシステムでも、使っているのはワークフローです。
3. 期中に、目標が更新された回数はどれくらいか。期初と期末の2回だけなら、目標は「管理する対象」であって、「人を動かす道具」になっていません。
3つとも厳しい答えになった会社は、タレントマネジメントを買ったつもりで、実際に必要だったのはパフォーマンスマネジメントだった、という可能性が高い。逆に、2の答えがしっかりある会社は、タレントマネジメントが本当に動いています。その会社にとってパフォーマンスマネジメントは、配置と育成の判断に使う履歴を、日常の仕事から供給する側の仕組みになります。
タレントマネジメントからの乗り換えと、併用は、どう考えればいいか?
正直に書いておきます。
コレドウの現場で実際に起きているのは、前者です。タレントマネジメントシステムを目標と評価のワークフローとしてしか使っていなかった会社が、パフォーマンスマネジメントの仕組みに移る。これは、タレントマネジメントを否定して乗り換えたのではなく、買ったものと必要だったものの不一致を解消した、というのが実態に近い。ワークフローだけあってもしょうがない、と気づいた会社が、目的に合う仕組みを選び直しています。
後者、つまりタレントマネジメントを人材データベースとして本気で使っている会社が、そこにパフォーマンスマネジメントの履歴を流し込む形は、設計としては自然ですが、僕がまだ実例として語れる段階にはありません。層が違う2つの仕組みが、履歴でつながる。それが本来の姿だと思っていますが、ここは「そうあるべきだ」の話として読んでください。
タレントマネジメントをやめるべきだ、という話ではありません。目的に立ち返って、いま動いているのはどの層なのかを見る。それだけで、次に何を整えるべきかは決まります。
次に読むもの
パフォーマンスマネジメントの全体像は、パフォーマンスマネジメントとは何かにまとめています。目標が「管理する対象」になってしまう構造は目標管理が形骸化する原因に。人材データの性質の違いは人材データが溜まらないのは、入力の問題ではないを。
コレドウは、AIエージェントが伴走するパフォーマンスマネジメントシステムです。目標、行動、対話、評価を日常で回し、その履歴を残す。人材を把握する層ではなく、把握された人が成果を出す層の仕組みです。(プロダクトの詳細はこちら)
よくある質問
パフォーマンスマネジメントとタレントマネジメントの違いは何ですか?
目的、起点、頻度、データ、性格の5つが違います。タレントマネジメントは人材データを起点に、配置と育成に活かす管理。パフォーマンスマネジメントは目標を起点に、毎週の対話と評価で成果を出し続ける経営です。競合ではなく、層が違います。
タレントマネジメントシステムを、目標と評価のワークフローにしか使っていません。どうすればいいですか?
まず目的に立ち返ります。人材データベースを見て決めた配置や育成がこの1年でゼロなら、使っているのはワークフローだけです。必要だったのはパフォーマンスマネジメントの可能性が高く、買ったものと必要だったものの不一致を解消する形になります。
自社にタレントマネジメントとパフォーマンスマネジメントのどちらが必要か、どう見分けますか?
3つの問いで見分けます。先月、仕事で起きたことがシステムに反映されたか。この1年で人材データベースから決めた配置や育成は何件か。期中に目標が更新された回数は何回か。厳しい答えが並ぶなら、必要なのは日常で回す仕組みです。
参考・出典
- HR総研「『タレントマネジメントシステム』に関するアンケート調査」(2019年10月4日〜11日、企業の人事責任者・人材育成・タレントマネジメントシステム担当者186件、WEBアンケート)https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=246
この記事の土台になっている考え方の全体像は、パフォーマンスマネジメントとは何かにまとめています。体系的な解説はコレドウ・パフォーマンスマネジメント全書(抜粋版)へ。