半年に一回しか褒められないゲームを、誰がやるのか——元ゲームのレベルデザイナーが考える目標設定
この記事の要点
- レベルデザインとは難易度調整ではなく、「学習と動機の設計」。プレイヤーが自然にルールを理解し、夢中になるように仕込む仕事
- 仕事の目標が機能しないのは、人のせいではなく設計のせい。目的不明・ルール不明・フィードバックなし・やり直し不可——ゲームなら誰もやらない
- 処方箋はシンプル。目標の設定と、対話と、フィードバック。半年に一回しか褒められないゲームを、面白くすることはできない
僕は昔、ディー・エヌ・エーでゲームの「レベルデザイン」をやっていました。どのくらいのスピードでプレイヤーを成長させて、どこにどんなハードルを置くのか——それを設計する仕事です。
で、マネジメントの世界に来て、気づいてしまったんです。多くの会社の目標管理って、ゲームとして見ると、相当な"クソゲー"だぞ、と。
今日はその話をします。
レベルデザインとは——スライムのHPを決める仕事
レベルデザインと聞くと、「難易度の調整でしょ?」と思われがちですが、実はもっと深い仕事です。
ドラクエで喩えると、こういうことをやります。スライムのHPや攻撃力を、いくつに設定するか。勇者の初期攻撃力を、どうするか。最初はスライムを数発叩かないと倒せない。でもレベルが1つ上がると、ワンパンで倒せるようになる——この体験を通じて、プレイヤーは「レベルが上がると強くなるんだ」を学習します。しかもこれを、ゲーム開始30分以内に体験させたほうがいい。
その先も続きます。次の村までの距離とモンスターのエンカウント率を調整して、順当に進むと、村に着いた時点で「皮の盾は買えるけど、銅の剣はまだ買えない」くらいの所持金になるようにする。すると、プレイヤーは自然に理解するんです。「敵を倒して、お金を貯めて、強い装備を買うのね!」と。
誰も説明していないのに、ルールと目的が体に入っていく。これがレベルデザインです。
終わりのないソーシャルゲームなら、さらに込み入ったことをします。強くなりすぎたプレイヤーには、あえてゲームバランスを一度壊すような仕組みを入れて、新しいハードルを立てる。難しい面のあとには簡単な面を続けて、「うまくなった」という実感を与える。行動心理学を駆使して、飽きずに、楽しく、のめり込んでいく流れを仕込む。
つまりレベルデザインとは、難易度調整ではなく、学習と動機の設計なんです。
仕事の目標は、なぜ"クソゲー"なのか
この目で、多くの会社の目標管理を見てみましょう。
- 目的がない。このゲーム、何を目指しているのかが分からない
- ルールがよく分からない。何をしたら評価されるのか、誰も説明できない
- フィードバックがない。敵を叩いてもダメージ表示が出ない。効いてるのか効いてないのか分からない
- やり直しが効かない。期初に立てた目標で一発勝負
- 失敗すると怒られる。デスペナルティだけ、やたら重い
誰がこんなゲームやるんだ!という話です。
ゲームは、何百万人を寝食忘れて夢中にさせます。一方で仕事の目標は、多くの人にとって苦痛です。この差は、人間の意欲の問題ではありません。設計の問題です。ゲームには人を動かす設計があり、多くの会社の目標管理には、それがない。それだけのことです。
ゲームに学ぶ、目標の設計原則
じゃあ、レベルデザインの考え方を目標管理に持ち込むと、どうなるか。僕が大事だと思っている原則を並べます。
- 最初の30分でループを学習させる:期の初めに「頑張る → 成果が出る → 認められる」の小さな一周を、できるだけ早く体験させる。最初の成功体験が遅いゲームは、その前に離脱されます
- 「皮の盾は買えるけど、銅の剣はまだ」を作る:マイルストーンを細かく置いて、次に手が届くものが常に見えている状態にする。ゴールが遠すぎる目標は、それだけで飽きます
- フィードバックの頻度を上げる:報酬が評価のときだけって、つまらないゲームじゃないですか。半年に一回しか褒められないなんて、クソゲーも甚だしい。日々の対話で、小さく返す
- 難しい面のあとには、簡単な面を:ストレッチの連続では人は折れます。あえて達成しやすい目標を挟んで、「うまくなった」実感を作る
- 強くなりすぎた人には、あえてバランスを壊す:仕事に慣れきったエースがマンネリで腐るのは、ハードルが上がらないから。新しい難易度を意図的に用意する
- 自分でプレイさせる:ゲームが夢中にさせるのは、自分で操作しているからです。目標も同じで、自分の言葉で作らせて、言語化させる。与えられた目標は、他人のプレイ動画を見せられているのと同じです
……お気づきでしょうか。これ、僕がいつも書いている目標設定の話(目標設定の方法)と、期中に手応えを返す話(なぜ評価制度は「作っても回らない」のか)に、全部つながっています。ゲームの世界では何十年も前から実証済みの原則を、仕事の目標だけがやっていないんです。
挑戦と能力のバランス——フロー理論という裏付け
これには理論的な裏付けもあります。心理学者チクセントミハイの「フロー理論」です。人が没頭状態(フロー)に入るのは、挑戦の難しさと自分の能力が釣り合ったとき。挑戦が高すぎれば不安になり、低すぎれば退屈する。ゲームはこの曲線に沿って、常に「少し背伸びすれば届く」が続くように精密に設計されています。
仕事の目標も、まったく同じです。届かない目標は不安と諦めを生み、届きすぎる目標は退屈を生む。「少し背伸びすれば届く」ラインを、対話しながら握り続ける。これが目標設定におけるレベルデザインです。
OKRでもMBOでも、フィードバックサイクルが回れば勝ち
僕のチームでOKRを回していたときは、週に一度、チーム全員で感謝とフィードバックを伝え合う振り返り会をやっていました。「ありがとう」と一緒に、「ここは届いてるけど、ここが惜しいよね」を、チーム全体で毎週回す。
これをやっていて分かったのは、フィードバックサイクルさえ回っていれば、OKRが良いとかMBOが悪いとか、正直どうでもいいということです。逆に、「数字だけちゃんと渡せば、あとはやるでしょ?」——これが一番甘い。数字を渡すだけで人が動くなら、レベルデザイナーなんて職業は存在していません。(このあたりの話はパフォーマンスマネジメントとはにも書きました。)
まとめ:目標の設定と、対話と、フィードバック
- レベルデザインは、学習と動機の設計。ゲームは「自然にルールが分かり、夢中になる」よう作り込まれている
- 仕事の目標がつまらないのは、人のせいじゃなく設計のせい。目的・ルール・フィードバック・やり直し——全部欠けている
- 処方箋は、目標の設定と、対話と、フィードバック。特にフィードバックの頻度。半年に一回のご褒美で夢中になれる人はいない
コレドウが作っているのは、いわば「マネジメントのレベルデザイン」を仕組みで支えるサービスです。目標設定から、日々の進捗、振り返り、評価運用まで——「頑張る → 手応えが返る → 次に届くものが見える」のループを、AIの伴走で回し続けます。(プロダクトの詳細はこちら)
参考・出典
- M.チクセントミハイ "Flow: The Psychology of Optimal Experience"(1990)——挑戦と能力のバランスが没頭を生む「フロー理論」の原典