「モチベーション管理」なんて、存在しない——それでも、人を動かし続ける5つの手
この記事の要点
- 組織はミッションを遂行するために存在していて、ミッションが成長し続ける限り、同じ仕事の規模が大きくなるだけ。3年もやれば、誰だってだれる。僕もだれるタイプなので、よく分かる
- モチベーションは、行動の「前」には存在しない。人はやる気があるから動くのではなく、動くからやる気になる(行動活性化)。自転車と同じで、漕げば進むが、漕がなければ転ぶ。重いギアでは漕ぎ出せないから、まず軽くして走り出し、走りながら重くしていく
- だから「管理」ではなく「運用」。管理の対象があるとすれば、いまどういう状態かを観察すること。そのうえでどうするかが、運用の話
「社員のモチベーションが上がらない」「メンバーのやる気をどう管理すればいいか」——よく聞く相談です。今日はこの相談に、ちょっとひねくれた角度から答えます。
3年もいれば、誰だってだれる
組織というのは、あるミッションをこなすために存在しています。そのミッションが連続的に成長している限り、やることは同じ仕事の繰り返しです。数字が130%伸びる、みたいなレベルの話になりがちで、突き詰めると「去年と同じことを、もう少し大きくやる」に近い。
そりゃ、だれますよね。3年もいたら飽きる。メンバーの顔を見ていたら、だいたい分かります。正直に言うと、僕自身も飽きちゃうタイプなので、これはよく分かるんです。
モチベーションは、行動の「前」には存在しない
ここで、ちゃぶ台をひっくり返すようなことを言います。モチベーションというものは、行動の前には存在しないんです。
心理学に「行動活性化」という考え方があります。1970年代に心理学者のピーター・レビンソンが体系化し、いまではうつの治療でも第一線で使われている、研究の裏付けが厚い枠組みです。要点はシンプルで——人は、やる気があるから動くのではない。動くから、やる気になる。行動が手応えを生み、手応えが次の行動を呼ぶ。モチベーションは原因ではなく、結果なんです。
僕のイメージは、自転車です。漕ぎ出せば進むけど、漕がなければ転ぶ。そして、ギアがめちゃくちゃ重いと、そもそも漕ぎ出せない。だったら、まずギアを軽くしてあげれば、走り出すことはできる。走り出したら、今度は少しずつギアを重くしていきながら、スピードを上げていく。
だとすると、やるべきことは「やる気を上げる」ことではありません。ギアを軽くして、小さく動かして、できたことを承認する。走り出したら、ギアを重くしていく。これを繰り返して、漕ぎ続けている状態をつくる。それだけです。「モチベーションを管理する」という発想自体が、たぶん少しズレています。
管理の対象があるとすれば、それは「いま、この人がどういう状態にあるか」を観察することです。だれているのか、燃えているのか、ギアが重すぎて止まりかけているのか。観察はできる。でも、そのあとどうするかは、管理ではなく運用の話になります。
動かし続ける、5つの手
観察した結果、じゃあどうギアを変えるか。僕がやってきた・見てきた手を、5つ紹介します。
① タスクに、意味を持たせ直す
レンガを積んでいるのか、教会を作っているのか、祈る場所を作っているのか。——「三人のレンガ職人」の寓話をご存じでしょうか。建設現場で働く3人に「何をしているのか」と尋ねると、1人目は「レンガを積んでいる」、2人目は「壁を作っている」、3人目は「教会を建てている」と答えた、という話です。よく「イソップ寓話」として紹介されますが、実はイソップには存在しません。原型は、ドラッカーが『マネジメント』で紹介した「三人の石工」の逸話だと言われています。
やっている作業は、3人とも同じです。でも、見ている視座が違うだけで、意識も、結果への感動もまるで変わる。(この「視座によって同じ数字の意味が変わる」話はOKR、「特性」をわかって使っていますか?にも書きました。)タスクそのものを変えなくても、意味づけを変えるだけで動くことがある。まずここからです。
② 大黒柱を、あえて引っこ抜く
安定を支えている人を、あえてその場所から抜く。勇気がいりますが、これがかなり効きます。理由は2つあって、抜かれた本人は新しいチャレンジができる。そして残されたチームは、新しい大黒柱を自分たちで作りにいくために、激しく動き出す。以前働いていた会社では、これが日常的に行われていました。安定を壊すこと自体が、次の成長のスイッチになる。
③ 異動を、自由にする
これも以前働いていた会社でやっていたことです。異動を本人の希望で自由にできるようにする。しかもこの制度、本人が「異動したい」と手を挙げられるだけじゃなくて、部門長が他部署の知り合いを引き抜くこともできたんです。すごい制度ですよね。人気のない部署の人たちは、最初は怒ります。でも、「人気がないのはマネジメントのせいだ」と割り切ってしまう。それも含めて管理するのがあなたたちの仕事だ、という力学が強制的に働く。厳しいやり方に見えますが、これがきちんと機能していたのが素敵だったなと思います。
④ 渡せないなら、斜めに繋ぐ
役割や裁量、難易度を上げる、という手も当然あります。ただ、部門の中で渡せるものには限界があって、いまのフェーズだと泥臭く地道なことを積み上げるしかない、という時期も必ずある。そういうときは、他の事業部の人と話をさせたり、斜めの関係を作ってあげたりする。
この「斜めに繋ぐ」、地味に見えて効果が3つあります。ひとつ、自分の仕事が外からどう見えているかが分かる。ふたつ、自分のアウトプットはたいてい他の部門で活用されているので、その繋がりを自分の目で見に行ける。みっつ、その先のキャリアのパスがイメージできる。渡せるオポチュニティが用意できるうちは渡す。無理なら、横や斜めに繋ぐ。
⑤ 止まりかけている人には、ギアを軽くする
ここまでの4つは、ギアを重くしたり、コースを変えたりする話でした。でも逆に、そもそもモチベーションがなさそうな人、止まりかけている人には、文字通り小さい仕事をやってもらう。ギアを一番軽くして、まず漕ぎ出してもらうんです。
そして、できたことを言語化してあげて、「次、何したい?」と聞く。Must(やるべきこと)を一緒にこなして、Can(できること)を言葉にして、そのうえでWill(やりたいこと)を聞く——この順番の対話が大事です。(この Must→Can→Will の話は部下のモチベーション、「お金か承認か」で考えていませんか?に書きました。)
バランス破壊は、失敗しないのか
文化と対話があれば、実はあまり失敗しません。組織には自浄作用があって、空いた穴は誰かが埋めようとする。だから、思い切って揺さぶっても組織は回り続けます。
ただし、その前提を外したら——間違いなく、とんでもなく失敗します。
僕が「うまくいっていた」と書いた会社には、はっきりした前提がありました。異動の自由化は、代表が全社の前で「人気がないのは、マネージャーが魅力的な仕事にできていないのが悪い」と言い切っていた。大黒柱の引っこ抜きは、その狙いまで含めて、入社時の研修で語られていた。つまり、どの施策も会社の共通言語になっていて、意志のある施策として文化に定着していたんです。
裏を返すと、この文化の理解がないまま形だけ真似したら、大黒柱を抜くのはただの理不尽な人事だし、異動の自由化はただの人材流出装置になります。そして文化があっても、対話をし続けなければ結局だめです。対話もなしに①〜⑤の施策だけやったら、失敗します。間違いなく。とんでもなく。
おわりに
社員のモチベーションを、上げようとしなくていいと思っています。やる気は注入するものではなく、走り出した後についてくるもの。だから観察して、ギアを調整する——運用するものです。3年もやれば誰でもだれる。それは当たり前で、責めることではありません。
意味を持たせ直す。大黒柱を抜く。異動を自由にする。渡せないなら斜めに繋ぐ。止まりかけたら、軽くして漕ぎ出させる。どれも、モチベーションを注入する魔法ではなく、対話と文化を土台にして初めて効く、地道な運用です。(人が夢中になる設計そのものは半年に一回しか褒められないゲームを、誰がやるのかに書きました。)
コレドウがAIで支えているのも、この観察と運用です。いまの状態を可視化し、小さな達成を積み重ねる仕組みをつくる。(プロダクトの詳細はこちら)
参考・出典
- P.F.ドラッカー『マネジメント——課題、責任、実践』——「三人の石工」の逸話(「三人のレンガ職人」として広く流布する寓話の原型。イソップ寓話には存在しない)
- Peter M. Lewinsohn による行動活性化(Behavioral Activation)——「行動が先、モチベーションは後」を裏付ける臨床心理学の枠組み。うつ治療の標準的アプローチのひとつ(Medical News Today: Behavioral activation)